0

「ヒトT細胞白血病ウイルス1型」がずる賢い?

不思議な生態を持った生物たち

生物学について詳しく調べていると、時に驚くような性質を持った動物・生物に遭遇するものです。
特に驚きが大きいのは寄生虫など他の生物の体の中で自分の生命を維持する生物体で、どういう経緯でそういう進化をしたのだろうと感心してしまうことがよくあります。

寄生虫によく似た生態のものにウイルスがあり、そちらも生物の体に入り込むことで大量に繁殖する性質を持っています。

近年発見されたウイルス研究の1つに「ヒトT細胞白血病ウイルス1型」というものがあります。
ヒトT細胞白血病ウイルス1型は「成人T細胞白血病」という危険な病気を引き起こす重大な因子であり、厚生労働省の公表によると現在約82万人がウイルスのキャリアであるといいます。

他のウイルスと異なるヒトT細胞白血病ウイルス1型特長は母子感染をしやすいということなのですが、研究によりウイルスは最初から母子感染を狙って寄生するヒトを選んでいることがわかりました。

ヒトT細胞白血病ウイルス1型が感染する経路としては、母子間での母乳感染、性行為による感染、輸血による感染が主なものとなっています。
ただし輸血を経由する感染は現在厳しく対策をするようになったことにより、現在ではほぼ確実にゼロにすることができています。

最もやっかいなのが性行為による感染です。
ウイルスは男女ともにキャリアとなる可能性があるものの、性行為による感染の場合男性の精子の中に入り込むという特長があるためキャリア男性が女性に感染することはあってもその逆はありません。

つまりウイルスが女性の体に入り込むということを優先させた進化をしているということです。

母子感染が起るまで女性の体は弱らせない

さらにこのヒトT細胞白血病ウイルス1型の恐ろしいところは、女性の体が妊娠をして子供を産むまで女性の体では発症をしないということです。

いわば母子感染が起るまでは女性の体本体を殺さないようにしているというわけで、菌のキャリアとなっていても出産まで症状が出ず気づかないまま数十年が経過するという例もあります。

感染しているかどうかは血液検査をすることで「HTLV-Ⅰ」が含まれているか判定することができます。
ただし男女とも感染が起こるのは性行為をした直後であっても、病気症状が出ないまま30~70年を過ごすということもあります。

現在のところ妊娠がわかった女性に対してこの血液検査をすることが勧められており、もし出産前に感染していることが発覚した場合には出産後の乳児には母乳ではなくミルクで育てるように指導をしています。

もし病気が発症をしたときには、リンパ節の腫れや原因不明の皮疹、肝臓の腫れや脾臓の腫れが起こります。
さらに血中のカルシウム値が上昇することにより喉の渇きを強く感じるようになり、場合によっては意識障害や不整脈を起こすこともあります。